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オーナーチェンジ物件の基礎知識|仕組みから投資判断のポイントまで

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オーナーチェンジ物件の基礎知識|仕組みから投資判断のポイントまで

企業が投資用不動産としてビルやマンションを購入するときの選択肢として「オーナーチェンジ物件」があります。
賃借人が入居した状態で所有者だけが入れ替わるこの取引形態は、新築物件や空室物件と比較して早い段階で収益が確保でき、投資判断や計画が立てやすいという利点があります。不動産ポートフォリオの構築・拡大を考えると、オーナーチェンジ物件は安定収益の確保とリスク分散の両立に貢献する重要な選択肢と言えるでしょう。
本記事では、オーナーチェンジ物件の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、そして物件選定と取得における重要なポイントを整理し、役立つ知識を解説します。

目次

  1. オーナーチェンジ物件とは?
    1. オーナーチェンジ物件の仕組み
    2. オーナーチェンジ物件が売却される理由
  2. オーナーチェンジ物件のメリットやデメリット
    1. オーナーチェンジ物件購入のメリット
    2. オーナーチェンジ物件購入のデメリット
  3. オーナーチェンジ物件の三大調査ポイント
    1. 契約内容
    2. 賃借人に関すること
    3. 建物に関する調査
  4. 承継される権利と義務
  5. オーナーチェンジ物件を理解し、不動産投資の選択肢にしよう
オーナーチェンジ物件とは?

オーナーチェンジ物件とは、賃借人が入居したまま所有者(オーナー)が変わる不動産取引を指し、この取引形態は投資用不動産の主流となっています。

新築物件や空室物件とは異なり、購入後は早期に賃料収入を得られるため、投資効率の面で魅力があります。また、既に賃貸経営の実績があるため、過去の入居率や賃料変動、管理コストなどの実績データに基づいて収益予測の精度が高まることから、より合理的な投資判断を行いやすいという特徴もあります。

このようなメリットから、オーナーチェンジ物件は、幅広い投資家層にとって魅力的な選択肢となっています。

オーナーチェンジ物件の所有者は、賃借人の意思に関わらず物件を自由に売買でき、取引は基本的な不動産売買と同じ流れで進行します。ただし、「賃借権」という負担付きの売買になるため、物件が売買されると、賃借人が存在する状態で所有者(賃貸人)のみが変更となります。

売主から買主への所有権の移転と同時に、賃貸人としての立場も自動的に引き継がれることは、民法第605条の2で明確に定められています。

同条では「前条、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。」と規定されているため、借主の同意なくしてオーナーチェンジが可能です。

つまり、賃借人が実際にその物件に入居しているという事実があれば、所有者が変わっても入居者の権利は保護される仕組みになっています。

出典:e-GOV「法令検索 民法令和6年5月24日 施行」

賃料収入があるにも関わらず、投資用物件を手放すオーナーがいるのはなぜでしょうか?売却の背景を正しく理解し、物件が抱える潜在的なリスクを評価することが投資判断において非常に重要です。

主な売却理由は下記の通りです。

・ポートフォリオの見直し時期だから

既存の賃貸物件が売却される理由としては、所有者によるポートフォリオの見直しが考えられます。例えば、都心のオフィスを売って郊外の物流施設に投資するといった戦略的な動きです。

・高値で売却できそうなタイミングだから

不動産市場が好調なタイミングで売却し、利益を確定させようという判断もよく見られます。さらに、将来的に価値が下がりそうな場合や、キーテナントの契約期間満了前に高く売りたい、といった先を見越した判断で売却されることもあります。

・資金を確保したいから

企業や投資家は、事業戦略の一環としてオーナーチェンジ物件を売却し、現金化を行うことがあります。新規事業投資や運転資金の確保などが主な目的であり、資本効率や財務状況の改善につながるため、経営判断として前向きに実施されるケースが少なくありません。

・ファンドの運用期間が満了したから

J-REITやファンドの運用期間(3〜7年程度)満了による出口戦略としての売却も典型的です。さらに、市場環境変化に対応して、オフィス特化型から複合用途型への転換など、運用戦略の変更によるポートフォリオの組み換えも売却理由となりえます。

これらの理由のなかには、物件の老朽化や将来的な価値低下への懸念といった、購入検討者が注意すべき側面が含まれていることを理解しておきましょう。

オーナーチェンジ物件のメリットやデメリット

オーナーチェンジ物件の購入を検討するときは、賃借人付き物件ならではの特徴を正確に理解することが重要です。早期の収益確保という大きなメリットがある一方、リスクも存在します。

オーナーチェンジ物件には、以下をはじめとするさまざまなメリットがあります。

  • 購入後、早期に安定した賃料収入が得られる
  • 実績データに基づく精度の高い収益予測ができる
  • 既存の管理体制を活用した効率的な賃貸経営ができる

早期の収益確保だけでなく、新たに入居者を募集する必要がないため、リーシング費用(募集・仲介業者への手数料)、内覧会の実施・対応などの手間、そして賃貸借契約締結までの空室による機会損失といったコストや労力を削減できます。

特に、近年は募集コストが上昇しているため、初期投資の負担軽減は大きなメリットです。

また、賃貸実績があるため、収益性分析のためのデータポイントが豊富なことも重要な特性です。賃料水準、稼働率の推移、管理費や修繕費などの実績データから、より精緻な投資リターン予測に基づく意思決定が可能になります。家賃の急激な下落や大量の退去がない限り、レントロール(賃貸条件一覧表)に基づいた安定的な収支計画が可能です。

さらに、修繕履歴等の運営データは、将来の修繕計画や資金計画策定に役立ちます。売主が持つ物件特有の運営ノウハウを継承することで、より効率的な賃貸経営が期待できます。

前管理会社を継続利用できれば、物件特性や入居者傾向を熟知した管理が維持され、安定稼働につながります。一方、オーナーチェンジを機に管理体制を見直す戦略も有効です。賃借人への影響を抑えつつ、管理業務の内製化や新規管理会社の試験導入など、自社のポートフォリオでは実施が難しい体制刷新を実行するチャンスとなります。

オーナーチェンジ物件は早期に収益が得られる魅力がある一方、独自のリスクも理解しておく必要があります。主な注意点を提示します。

  • 専有部の詳細な現状確認が難しい
  • 賃借人を自由に選ぶことができない
  • 物件の運営自由度が制限される

賃借人が居住中のため、専有部の詳細な現状確認は難しいのがデメリットです。簡易的な内見に留まることが多く、隠れた瑕疵や将来的な改修リスクを把握しきれない可能性があります。売主や管理会社からの情報開示を踏まえ、一定のリスク許容を考慮する必要性は否定できないポイントです。

次に、賃借人を選ぶ自由がないため、滞納履歴や管理上の問題を抱える賃借人を引き継ぐ可能性があります。長期にわたって契約している賃借人は、賃料が市場水準より低いこともあり、収益性に影響を与える可能性があるため、契約内容の詳細な確認が不可欠です。

最後に、賃借人がいることで、物件の運営自由度が制限されます。具体的には、リフォームやリノベーションの範囲や時期、利用規約の変更、共用部分のルール変更などが難しくなる場合があります。ひいては、物件価値向上や運営効率化施策の妨げになるかもしれません。

物件の改善余地が見えても、賃借人の権利や既存ルールが優先される点を認識することが重要です。契約内容、賃借人の属性、使用状況などを事前に調査し、「何ができて何ができないか」を明確にした上で、実現可能な計画を立てることが、将来のトラブル回避につながります。

オーナーチェンジ物件の三大調査ポイント

オーナーチェンジ物件の取引成否を分けるのは、契約内容、賃借人の状況、建物状態からなる三要素の調査と分析です。ここでは、これらの重要ポイントについて解説します。

賃借人との契約はオーナーチェンジ物件においてもっとも重要な資産です。既存契約の詳細を把握することで、将来の収支を正確に評価することができます。

・契約期間と更新条件

契約期間と更新条件は、オーナーチェンジ物件の収益安定性を左右する重要な要素です。更新時や契約期間満了時は賃借人が退去を検討する主要なタイミングであり、特に契約満了日の近い物件や定期借家契約の物件では契約更新や再契約の見通しには注意が必要です。

また、賃借人の業種による更新見通しの違いも重要な評価ポイントとなります。医療施設など移転コストが高い業種は継続利用の傾向が強いのに対し、オフィスや小売店舗では代替物件の選択肢が多いため、周辺の空室状況や競合物件の有無を含めた慎重な予測が求められます。

・賃料水準の適正性

賃料は投資リターンを直接左右する要素です。オーナーチェンジ物件では賃料などが既に決定しているという特有の観点から見通しを確認しましょう。

現在の賃料が市場相場を下回っている場合、将来的な賃料増額のポテンシャルがある一方、当面は投資利回りが低くなります。逆に市場相場を上回る賃料設定では、更新時の値下げ圧力や退去リスクが高まります。特に長期入居者の場合、賃料が市場水準から大きく乖離していることがあり、賃料変動の可能性を慎重に見極める必要があります。

・特約の存在

賃貸借契約で定められている特約条項が、収益に大きな影響を与えることがあります。特約により、退去時の原状回復義務が通常より緩和されている場合、将来の追加コスト負担となる可能性があります。

また、中途解約条項の有無と内容も重要です。解約予告期間が短い場合や、違約金が低額な場合、テナントの退去リスクを高く見積もる必要性があるからです。そのほか、賃料改定条項も必ず確認しましょう。改定可能時期や改定可能幅が明記されているケースもあるため、賃料設定の自由度が制限される可能性があります。

オーナーチェンジ物件では現賃借人との関係を引き継ぐことになるため、どのような賃借人が利用しているかを詳細に把握することが重要です。

・賃借人の属性

一般的な収益物件と異なり、オーナーチェンジ物件では賃借人の選択ができないため、属性分析が極めて重要です。

個人か法人か、基本情報だけでなく、信用力や財務状況も確認します。法人の場合、決算書や会社情報のほか、店舗であれば直近の売上なども確認し経営状況を分析することが望ましいでしょう。また、売主による与信判断の基準を確認することで、賃借人選定の質や基準をもって間接的に賃借人を評価することも可能です。

また、賃料滞納歴やトラブルも把握しておきたいところです。こうした情報は表面的な資料からは見えにくいため、現管理会社からの情報収集によって補完するとよいでしょう。

・保証会社の保証範囲

マンションにおいては、保証会社の保証内容と範囲が重要な確認事項です。滞納保証の期間と範囲、保証会社の信用力と対応実績、保証更新の条件と費用などを確認します。必要に応じて、保証会社に加入していない賃借人への保証加入の検討も調査段階でしておくと、購入後の運営がスムーズに進みます。

オーナーチェンジ物件では、新オーナーや新管理会社への保証契約の承継条件が保証会社によって異なる点に注意が必要です。有事の際の保証範囲も保証会社ごとに異なるため、免責事項などを確認しましょう。

オーナーチェンジ物件では、入居者が使用中の専有部分を詳細に確認できないことが難点です。通常の不動産売買で行われる室内の細部チェックが制限されるため、目に見えない部分の状態を間接的に評価する方法が重要になります。

・修繕履歴の確認

入居中の物件は専有部の確認が難しいため、過去の修繕履歴から建物状態を推測することが求められます。大規模修繕の実施時期と内容を確認するとともに、日常的な小規模修繕の記録も重要な評価ポイントです。

設備機器の更新状況やインフラ設備の点検状況、特に目視で確認しにくい給排水設備や電気設備については、過去のトラブル履歴から状態を推測します。また、同じ箇所の修繕が繰り返されていないか、修繕頻度や対応時間は適切かなど、管理会社の修繕レポートを分析することで、建物の劣化傾向や潜在的問題点、そして現オーナーの維持管理に対する姿勢を読み取ることができます。

・設備機器の更新状況

エレベーター、給排水設備、空調設備などの主要設備は、賃借人の満足度に直結するだけでなく、故障時の緊急対応コストも高額になりがちです。

これらの設備の設置年月、メーカー、型番、法定点検結果、過去の故障や交換の記録などを確認し、残存耐用年数と更新時期を推定します。特に給排水管などは目視では状態を確認できないため、専門的検査の実施記録や、漏水事故の履歴から状態を推測することも必要です。

総じて、賃借人がいるため直接確認できない箇所については、詳細な調査を行い、潜在的なリスクに備えた修繕積立金の設定を検討すべきでしょう。オーナーチェンジ物件の調査では、表面的な情報だけでなく、経済的・物理的・法的側面から多角的なデューデリジェンス(適正評価)を実施することが重要です。

具体的には、過去の収支実績や賃料支払い状況の確認(経済的側面)、エンジニアリングレポートによる建物状態の把握(物理的側面)、そして賃貸借契約や法令遵守状況の精査(法的側面)が不可欠です。これらを通じて「見えない部分をいかに正確に評価するか」という課題に対応することで、将来的なリスクとリターンを総合的に判断することができます。

なお、不動産におけるデューデリジェンスについては、以下の記事も参照ください。

関連記事:不動産のデューデリジェンスとは?不動産の取引に欠かせない調査について解説

承継される権利と義務

オーナーチェンジ物件を取得する際は、単に不動産の所有権だけでなく、賃貸借契約に基づく賃貸人の地位も法律上承継されます。これは民法上の原則であり、賃借人の同意がなくとも、権利義務関係は新オーナーに移転する特徴があります。

新オーナーは既存の賃貸借契約に基づく賃料収入を得る権利などを取得すると同時に、賃借人に対する義務も引き継ぐことになります。承継される具体的な権利と義務の内容を正確に把握することが、物件の将来収益や潜在的リスクを評価する上で不可欠です。これから、具体的にどのような権利義務が承継されるのかを見ていきましょう。

新所有者が承継する権利は以下のようなものです。

  • 賃料を請求して受け取る権利(賃料請求権および受領権)
    物件の所有権移転日以降、新オーナーとして賃借人から賃料を請求し受け取ることができます
  • 賃料以外の各種費用を請求する権利(契約に基づく各種請求権)
    共益費、駐車場使用料、付帯設備利用料など、賃貸借契約で定められた賃料以外の費用を請求できます
  • 契約終了時に物件の返還を求める権利(契約終了時の明渡請求権)
    賃貸借契約が期間満了となった場合や、賃借人が債務不履行した場合に、物件の明け渡しを法的に要求できます
  • 契約条件に従って賃料を見直す権利(賃料改定権)
    賃貸借契約に定められた条件(時期や方法)に基づいて、賃料の増減額を実施できます

売主が口頭でしていた約束事には注意が必要です。賃借人からすれば「前のオーナーと約束していた」という主張が紛争の種となることもあるため、取引前に非公式合意の有無について売主に確認しておくと良いでしょう。

新所有者が承継する義務は以下のようなものです。

  • 物件の修理や設備の修繕や維持管理を行う義務(修繕義務)
    賃貸借契約や法令で定められた範囲内で、建物や設備の不具合を修理し、適切な状態に保つ必要があります
  • 賃借人が退去する際に敷金を返す義務(敷金返還義務)
    賃借人が退去する際、原状回復費用などを精算した後の残額を敷金として返還しなければなりません
  • 賃借人が物件を問題なく使用できるようにする義務(賃借人の使用収益を保証する義務)
    賃借人が契約に従って物件を適切に使用・利用できる状態を維持する必要があります
  • 物件購入前から存在する問題に対処する義務(過去の不具合への対応責任)
    前所有者の時代から継続している建物や設備の不具合についても、新オーナーとして対応する責任を引き継ぎます

原状回復や修繕の取り決めが重要です。一般的に引き渡し日以前に発生した退去や修繕は売主が対応しますが、売買契約のなかで例外的な定めになることも珍しくありません。なかには、空室の原状回復を行わないことを前提とした取引も存在していますので、工事に関する取り決めにはくれぐれも注意しましょう。

そのほか、オーナーチェンジ取引において、法律上は賃借人の承諾は不要です。しかし、実務上は円滑な関係構築のため、所有権移転前または直後に賃借人へ書面で通知したり、大規模物件や商業施設ではキーテナントへの事前説明を行ったりすることが一般的です。

また、所有権移転後には、新賃貸人・旧賃貸人・賃借人の三者間で「賃貸人の地位承継に関する合意書」を取り交わすことが望ましいとされています。

オーナーチェンジを円滑に進めるためには、建物や契約だけでなく、賃借人との関係性を引き継ぐという視点が不可欠です。契約上の権利義務を超えた「関係性の承継」が、長期的な運営の安定につながります。

オーナーチェンジ物件を理解し、不動産投資の選択肢にしよう

オーナーチェンジ物件は、賃借人が入居した状態でオーナーが交代する不動産取引です。購入後の早い段階から安定した賃料収入が得られる点が最大の魅力であり、過去の運用実績データに基づき精度の高い収益予測が可能です。

しかし、入居中の賃借人がいるため専有部の詳細確認が困難という課題があります。また、既存賃借人との契約を引き継ぐため、賃貸経営の自由度が低く、契約条件によっては運営面での制約が生じることもあります。

オーナーチェンジ物件の購入検討時には、賃貸借契約の詳細、賃借人の質、建物の物理的状態について徹底した調査を行うことが重要です。また、必要に応じて管理会社や不動産鑑定士などの知見を活用することで投資判断がしやすくなるでしょう。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業してから賃貸仲介・賃貸管理・売買仲介など不動産業全般に従事。専門分野は信託案件のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務。プライム企業での業務経験を経て、現在は注文住宅会社にて不動産部門の責任者として活躍しながら、不動産に関する兼業ライターとして活躍中。