名古屋市の不動産市場動向|現状分析と今後の見通し
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全国の主要都市では中心部の再開発が行われており、名古屋市においても2016年ころから名古屋駅周辺の再整備がスタートしています。名古屋市の再開発は2040年ころと想定されるリニア中央新幹線の全線開業を見据えたもので、同時期を念頭に官民による再開発事業が継続中です。
名古屋市が目指す新たな都市の形成には、東京に集中する首都機能を分散し、名古屋市がその機能を補完する役割を担おうとする目的もあります。
この記事では、今後成長が期待される名古屋市の不動産市場について、現状の分析と今後の見通しを解説します。
目次
1. 名古屋市のオフィス市場動向

リニア中央新幹線は、2024年3月に当初の品川-名古屋間の開業予定が延期されました。しかしながら再開発事業への影響は少なく、2024年末までで、複数の大規模複合施設やタワーマンションが竣工・開業しました。2025年以降も栄地区や名駅地区での開発事業が継続し、2026年に供給される新築ビルは5万坪超が予定されています。
ここでは、不動産市場が堅調と言える状況のなか、オフィス市場の売買と賃貸の現状について解説します。
1.1. オフィスビル|売買市場の動き
名古屋市のオフィスビル全体の資産額について、正確なものは公表されていませんが、J-REITの保有資産額から推定すると約2,200億円と考えられます。
売買状況を確認すると大型の取引事例についての具体的な公表はありませんが、流通市場における売買実績は2023年に59件の197億円、2024年は第3四半期までで24件の59億円と活発な状況が伺えます。また2024年には新規供給が約2.4万坪あり、投資法人による売買も一定数あったと想像できます。
名古屋市のオフィス市場は投資対象としての評価が高く、日本不動産研究所の「不動産投資家調査(2024年10月現在)」による期待利回りは4.4%と、大阪市に次いで低い水準となっており期待値が高いと言えるでしょう。
また、名古屋市は三大都市圏を形成する重要都市であるとともに、東京の首都機能を補完する都市としての役割も期待されており、今後の成長力に対しても投資が集まっていると言えそうです。
1.2. オフィスビル|賃貸市場の動き
オフィス賃貸市場は、需要の拡大により空室率の低下が続いており堅調です。2025年2月末現在で平均空室率は4.27%と低い水準であり、今後は10月に大きな新規供給を予定していますが、その間、需要状況に変化がなければ、空室率の低下傾向はこのまま続くと思われます。

出典:三鬼商事「名古屋ビジネス地区」より作成
賃料は空室率低下に伴い上昇傾向となっており、1年間の上昇率は平均で1.8%、丸の内地区はとくに高く3.8%の上昇となっています。名駅から栄にかけたビジネス地区全体の再開発が、賃料上昇に影響しているものとみられます。
賃料水準は高いほうから、名駅、伏見、栄、丸の内の順ですが、今後2026年までは栄地区の再開発がすすむため、栄~丸の内の賃料水準が上昇する傾向が強いと考えられます。また、名駅地区は最高額の賃料を維持していますが、2027年からは名古屋駅地区の再開発がスタートするため、より一層賃料水準が高くなると考えられます。
名古屋市のビジネス地区の特徴として、エリア全体が狭い範囲に集中しているため、各地区での再開発の影響が全体に及びやすい傾向があると言えるでしょう。
1.3. 注目を集めるエリア
2025~2026年のオフィス市場は、栄駅周辺が注目されるエリアになります。
名古屋駅周辺から東側の伏見地区、栄地区までの広小路通周辺は、都市再生緊急整備地域に指定されるなど都心エリアとして位置づけられており、海外からの企業・人材を集積させる重点地域となっています。
2026年春には「ザ・ランドマーク名古屋栄(貸室面積約7,500坪)」が、次いで「栄トリッドスクエア(貸室面積約7,800坪)」も竣工予定であり、高機能オフィスの供給が期待されています。
また、ザ・ランドマーク名古屋栄にはヒルトンの「コンラッド名古屋」が開業予定であり、既存の「コンフォートイン名古屋栄駅前」が投資法人に譲渡されるなど、ホテルへの投資も活発になっています。
ほかに名古屋市の注目ホテルとしては、栄地区の中日ビルに「ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 名古屋」が2024年開業、2026年には「中川運河」に「セトレ名古屋(仮称)」が開業予定など、オフィスに加えホテル投資としても名古屋駅周辺から栄にかけては注目のエリアです。
2. 名古屋市のマンション市場動向

名古屋市は2021年にコロナ禍の影響による人口減少がありましたが、2022年以降は人口増加が続きマンション需要は順調に推移しています。
ここでは賃貸マンションの売買市場と賃貸市場の動きについて解説します。
2.1. マンション|売買市場の動き
名古屋市内の賃貸マンション売買市場は活発な状況となっています。名古屋市の賃貸マンション総資産額は、J-REITの資産保有額から推定すると約920億円と考えられます。
売買状況は、流通市場で2023年に163件の367億円が売買実績として公表され、2024年は第3四半期までで121件の273億円と流動性が高くなっています。マンションへの投資が活発になっている傾向が伺えますが、2024年は1件あたりの売買価格が前年比で低下しており、小規模な物件に取引が集中したものと考えられます。

出典:不動産情報ライブラリ「不動産価格情報の検索ダウンロード」より作成
また、名古屋市においては観光客の増加が著しく、他の主要都市でもみられるように、宿泊施設不足が課題となっています。宿泊施設不足解消の動きとして、賃貸マンションの民泊投資も活発になっており、住宅宿泊事業の届出総数は2024年累計で2022年の1.6倍にあたる446件になりました。
民泊需要の拡大は全国的な傾向ですが、需要を押し上げている要因として外国人観光客の増加があります。しかしながら、名古屋市では外国人観光客の割合が下図のとおり2割弱であり、福岡市などの増加傾向と比較すると少なく、今後の中京圏における観光資源の再整備などにより増加する可能性が高いでしょう。

出典:e-Stat「宿泊旅行統計調査」より作成
2.2. マンション|賃貸市場の動き
名古屋市の人口は2020年にピークとなりその後減少傾向となりましたが、2023年から再び増加傾向となり、2024年には233万人台を回復しています。世帯数は順調に増加しており2024年は2019年の5.1%増となっています。
転入超過の状態も続いており、2019年以降の推移は下図のとおりです。
2021年はコロナ禍の影響により、1,441人とわずかな超過でしたが、2022年に1万人台の転入超過となり以降増加幅が拡大しました。

出典:名古屋市「令和6年愛知県人口動向調査結果(名古屋市分)」より作成
人口増および世帯数増加により賃貸マンション需要は拡大しており、賃料の上昇も続いています。しかし、東京、大阪、福岡、札幌などの主要都市と比較すると上昇幅は小さいものになっています。
区別の平均賃料は1,200~1,900円/m2の範囲に納まっており、極端な高低差はみられません。名古屋市の面積は326km2と福岡市の343km2より小さく、コンパクトシティとしての特性により地域差が生じにくいことが背景にあると思われます。
2.3. 注目を集めるエリア
名古屋市は今後の街づくりの基本的な考え方として、後述する「名古屋市総合計画2028」を策定しています。同計画の中で注目されるのが「金山地区」です。
同地区は交通の要衝として知られ「金山駅」には、JR東海、名鉄、市営地下鉄がすべて乗り入れているため、名古屋市は行政上、同駅を「金山総合駅」と呼称しており、市民も「金山駅」ではなく「総合駅」と認識することが多いと言います。
同駅の乗降客数は1日あたり48万人を数え、中部圏では名古屋駅に次ぐ第2位となっています。中部国際空港からも近く「副都心」としての機能を期待されていたエリアですが、現状は高い容積率の地域に高層の建物がないなど、金山の優位性を十分に活かした活用がなされていません。
具体的には、2028年に定期借地契約が終了する、駅前の複合商業施設「アスナル金山」を含めた金山駅エリア一帯は、容積率が500~800%に指定されていますが、実際の建物の容積率は指定容積率の半分程度にとどまっています。そのため高い容積率を活かした街づくりが必要とされていました。
そのような経緯により、2025年2月に「金山駅周辺街づくり計画」の素案が公表され、アスナル金山跡地の再整備や市民会館のリニューアルなど、高い容積率を活かした第3の拠点づくりがスタートし、完成後は「副都心」としての機能を改めて担うことになります。
3. オフィスとマンションの変動要因(見通し)
名古屋市の経済はリニア中央新幹線の開業により大きく成長すると期待されています。2027年の東京-名古屋間の開業予定は見とおせない状態となっているものの、リニア開業を念頭にしたさまざまな開発計画は順調にすすんでおり、不動産市場は活発な状況が続くと思われます。
ここでは、今後数年間の見通しに影響すると思われる要因について解説します。
3.1. 名古屋市総合計画2028の概要
まず、名古屋市の不動産市場に影響を与える大きな要素として「名古屋市総合計画2028」に着目します。同計画において、名古屋市は「特別市」の創設を目指すとしています。
行政制度の面で名古屋市は愛知県に含まれる「二層制」になっていますが、特別市の創設により愛知県と並立した自治体となり、名古屋市と周辺自治体を含めた大都市圏の形成を計画しています。
計画のなかでは、大都市圏の中枢都市に相応しい都心構造を描いており、名駅地区から栄地区を横軸とし、名城・三の丸地区から金山地区を縦軸とした、十字の連携軸をつくりあげる構想です。
ダイナミックな都心構造により活力が生まれ、企業誘致や人材の集積が促進され、民間投資の呼び込みにも弾みがつくと期待されています。
また、名古屋市総合計画2028はリニア中央新幹線の全線開業ともリンクするものであり、東京-名古屋-大阪が連携した巨大交流圏の形成により、中心都市としての位置づけが確固なものとなるでしょう。そのうえで、東京の中枢管理機能をバックアップできる都市づくりの実現が、可能になると見込まれています。
3.2. 高機能オフィスの大量供給が続く
既に述べたように栄地区は2025~2026年に注目されるエリアであり、「ザ・ランドマーク名古屋栄」と「栄トリッドスクエア」の竣工が予定されています。2棟を合計すると4.5万坪を超える延床面積となり、文字どおり栄地区のランドマークとしても位置付けられます。
さらに、名古屋駅前では明治安田生命名古屋駅前ビルが建替えられ、2026年夏には延床面積約1.1万坪の新築オフィスビルが供給されます。2027年には「名古屋駅地区再開発計画」が着工し、名駅地区から栄地区の都心を形成する横軸に、高機能なオフィスが供給される予定です。
名古屋市は東京23区内からの本社機能などの移転を促進させる施策として「本社機能等立地促進補助金」を設け、事務所および研究施設を対象とした補助金制度を実施しています。補助金の限度額は10億円かつ移転経費に対しての補助率は10~50%となっています。
ほかにビジネスワーカーの異動に対しても、一人あたり最大100万円の補助があり、企業と人材の集積を積極的に図る一方、本社機能移転に相応しい高機能オフィスへの需要もさらに大きくなるでしょう。
3.3. マンション需要を左右する人口流入の増加
名古屋市では人口増加の傾向が続いていますが、人口増加が促進する要因の一つに外国人在留者の増加があります。
名古屋市の外国人在留者の人口比は約4%であり全国平均に近い値ですが、都道府県別の分布割合で確認すると、東京都がもっとも多く19.6%、次いで愛知県が8.9%、大阪府が8.8%という状況です。
東京の中枢機能を補完する役割を担う都市を目指す名古屋市にとって、外国人在留者のさらなる増加と、市内在住人材が首都圏へ転出することを防止する施策が重要になっています。
そのためにも、名古屋市におけるスタートアップ企業などの新規創業や、本社機能の移転促進など、これまですすめてきた施策を一層拡大することが推測されます。
さらに人口流入の増加に対しては、ビジネスワーカーや起業家が求める住環境の提供が大切です。とくに外国人在留者を対象としたマンションなど住環境の整備が、事業計画の柱になってくるでしょう。
4. リニア中央新幹線開業に向けた都市づくりに注目
名古屋市は三大都市の1つとして位置づけられ、モノづくり産業の集積地と言われます。地理的には東京と大阪の中間地点であり交通の重要拠点でもあります。
リニア中央新幹線の全線開業が予定される2040年ころには、その価値はより一層大きなものとなるでしょう。
現在、名古屋市内では都心部において再開発事業が活発に行われており、品川-名古屋間の開業と名古屋-大阪間の開業時期に焦点をあてた計画が実施されています。
オフィスやマンションを中心とした不動産市場は、ますます活発な動きとなり「名古屋駅地区開発計画の第1期工事」が完成する、2033年ころが大きなピークとなります。
主要都市の中でサイズとしては小さな都市ですが、将来的に大きな変貌をとげる可能性がある名古屋市に注目です。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。