福岡市の不動産市場動向|現状分析と今後の見通し
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福岡市は現在、100年に一度と言われる再開発事業が進行中であり、天神ビッグバンと博多コネクテッドの2大プロジェクトにより、2030年までには100棟超のビルの建替えが予定されています。
また、「グローバル創業・雇用創出特区」の指定によりアジアのビジネス拠点を目指す街づくりは、国内外からも大きな注目を集めており、さまざまな企業と人材が集積しています。
2030年まで続く2つのプロジェクトが、福岡市の不動産市場にどのような影響を及ぼすのか、今後の見通しを解説します。
目次
1. 福岡市のオフィス市場動向

福岡市は日本のGDPの約1割を占める九州経済圏の中心地です。東証上場企業数の多い市区町村ランキングでは、福岡市博多区は東京都世田谷区と同じ21位タイ、次いで福岡市中央区が23位と上位を占めています。
福岡ビジネス地区の中心は博多区と中央区であり、現在、再開発事業が活発に行われていますが、ここではオフィス市場の現状を概観します。
1.1. オフィスビル|売買市場の動き
福岡市に存在するオフィスの総資産額はJ-REITの保有資産額から推定すると、およそ1,800億円と予想されます。
オフィス売買市場の状況を分析すると、流通市場においては2023年に41件のオフィスビル売買があり、取引額は約207億円の規模となっています。2024年は売買件数が27件あり取引額は約139億円の規模です。
年間にオフィス総資産額の1割前後が売買された結果であり、流動性が比較的高い傾向と言えるでしょう。背景には福岡市の商業地における地価上昇率が高く、再開発に対する期待感により投資資金が集まりやすくなっているものと思われます。
このような状況を裏づけるように、日本不動産研究所の「不動産投資家調査」によると、福岡市の期待利回りは4.5%と三大都市圏以外ではもっとも低く、福岡市のオフィス需要が今後も拡大すると見込まれています。
大型の取引としては、天神ノースフロントビル(総賃貸面積約1,580坪)の不動産信託受益権(総額63.5億円)が6回に分けて譲渡される予定となっています。そのほか、リース会社による新築ビル取得が博多区でみられ、売買状況は活発な様相となっています。
1.2. オフィスビル|賃貸市場の動き
福岡市のオフィス空室率について過去1年間を確認すると、2024年5月以降は5%台前半での低下傾向が続いていましたが、2024年11月に4.77%と大きく低下した後、2024年12月に大規模ビルの竣工により一時的に5.56%まで空室が増加したものの、その後、ITサービスに対するニーズの多様化に対応できるよう分室開設や拡張移転などがあり、順調に空室消化され、以下の通り2025年2月には5.12%まで改善しています。

出典:三鬼商事「福岡ビジネス地区」より作成
福岡市では天神地区と博多地区で、再開発によるオフィスの新規供給が、他の主要都市と比較し高い水準で続いています。両地区では最終的に約100棟のビルの建替えが予定されており、新規供給の貸床規模は2024年で約6.4万坪です。また2025~2026年には約9.8万坪が予定されています。
賃料は空室率低下に伴い上昇が続き、1年間で平均約3%の上昇となっています。
最高賃料は天神地区の13,209円/坪、最低賃料は博多駅東・駅南地区の11,048円/坪ですが、平均賃料との乖離率は-0.07~+0.11と小さな範囲に納まっています。
理由としては、比較的狭い範囲にオフィスが集中していることが挙げられるでしょう。
1.3. 注目を集めるエリア
福岡市ビジネス地区において注目されるのは、100年に一度の再開発と言われる「天神ビッグバン」および「博多コネクテッド」が行われているエリアです。両エリアとも対象範囲は約80haあり、両エリアを合計すると東京ドーム34個分に相当する面積となります。
再開発により建替えされる建物は、2024年3月末の建築確認ベースで102棟になっており、話題を集めている大型ビル以外にも多くの建物が新築される予定です。
再開発事業には容積率の緩和など行政による支援施策が行われますが、両エリアにも「ボーナス認定制度」が設けられており、延床面積と高さ制限の緩和による公開空地の確保など、ビジネス地区での魅力ある街づくりが期待されます。
両エリアの再開発は同時にスタートしたものではなく、天神地区が先行してはじまりました。2013年に福岡市は積極的な企業誘致の推進を開始しており、その反応の良さから2015年に天神ビッグバンのプロジェクトが発表され、本格的な再開発事業がはじまりました。
企業誘致実績では「クリエイティブ関連産業」が多く、若い世代のビジネスワーカーの集積が目立つようになっており、創業支援など福岡市の政策が効果を上げた結果と言えるでしょう。
2. 福岡市のマンション市場動向

前述の2つの大きなプロジェクトは中心部に人口を集める働きがあり、マンション市場にも大きな影響を与えています。
ここでは賃貸マンションの売買状況と、賃貸市場の動きについて解説します。
2.1. マンション|売買市場の動き
福岡市における賃貸マンションの正確な総数は不明ですが、J-REITのマンション保有不動産額から推定すると約700億円程度と想定されます。
対して、流通市場における賃貸マンションの売買件数と売買額を不動産情報ライブラリーのデータから分析すると、2023年は131件の売買があり総額約353億円となっています。2024年は第3四半期までで63件の総額約185億円となっており、流動性が非常に高い市場になっていると言えます。
市場の成長性や賃貸需要の拡大に対する期待感が表れていると言え、再開発による街づくりはより一層活発な賃貸マンション投資を呼び込むでしょう。

出典:不動産情報ライブラリー「不動産価格(取引価格・成約価格)情報の検索・ダウンロード」より作成
また福岡市は観光などによる宿泊者数が増大しており、外国人の占める割合は2024年のデータでは約3割となっています。宿泊者数の増加は宿泊施設不足を招きますが、福岡市においても不足が顕著であり、マンションなどの民泊利用が増加、2024年末の住宅宿泊事業の届出総数は2022年より倍増の771件という状況です。
特に観光とビジネスを併せた目的で訪日する外国人にとって、民泊は経費削減の効果もあり、今後も増加が見込まれます。

出典:e-Stat「宿泊旅行統計調査」より作成
2.2. マンション|賃貸市場の動き
賃貸マンション需要には人口増加が大きく関係しますが、福岡市は人口増加が続いており、世帯数の増加は2024年9月末時点で2019年比8.68%の増加となっています。
転入超過の状態も下図の通り続いており、2022年には2019年の水準を超え、2024年も1万8千人以上の転入超過です。

出典:福岡市「人口統計」より作成
福岡市は典型的なコンパクトシティと評価されていますが、中心部における住宅供給が多く、アジアにおける「ハブ都市」としての位置づけが、さらに人口増加を進めることになるでしょう。
賃料に目を移すと、賃貸マンション賃料m2単価は中央区が3,210円と高く、他の区は2,000円台以下であり「二極化」の様相を呈しています。今後は博多駅周辺の再開発により利便性が高まり、博多区も上昇すると予想されます。

出典:ハトマークサイト「全国統計データ」より作成
2.3. 注目を集めるエリア
民間のアンケート調査では、博多駅周辺は住みやすい街として高い人気のあるエリアと言われています。
博多区において住宅需要が増加する要因として、事業所の多さがあります。
福岡市の事業所総数は2021年で73,223件あり、そのうちもっとも多い約29%の21,688件が博多区、次いで東区、中央区の順となっています。事業所数の多さは就労機会を生み出し、住みたい街としての大きな評価ポイントと言えます。
そのため人口増加率が高くなり、再開発による街の一新は、さらに人口集中を促進させることとなるでしょう。
これまで福岡市の中心と言えば「天神」のある中央区であり、博多区は博多駅や福岡空港を抱えた玄関口という位置づけでした。しかしながら現在進行中の「博多コネクテッド」プロジェクトにより、天神エリアと博多エリアが一体となった都心部を形成することになり、一層注目されるエリアとなるでしょう。
3. オフィスとマンションの変動要因(見通し)
福岡市のオフィス市場およびマンション市場は、成長と拡大が今後も見込める状況です。
令和7年地価公示価格が発表され、商業地の前年比変動率は11.3と地方4市(福岡・札幌・仙台・広島)でトップとなっており、2020年からの高い変動率が続いています。

出典:国土交通省「令和7年地価公示の概要」より作成
3.1. 福岡市が掲げる成長戦略
福岡市は積極的な成長戦略に基づき現在の状況を作り出しています。まず国がすすめる「グローバル創業・雇用創出特区」と「金融・資産運用特区」の指定による効果を挙げることができます。
グローバル創業・雇用創出特区は、2014年の国家戦略特区の1次指定によりスタートし、天神ビッグバンはその一環としてのプロジェクトと位置づけられるものです。
航空法による制限が緩和され高層ビルの建設が可能になったのも、特区指定によるものであり、スタートアップ企業の人材確保や、外国人による創業を促進するための措置も行っています。
金融・資産運用特区は2024年に指定されたものですが、アジアのゲートウェイとして福岡市を位置づけ、国際的な金融機関や関連企業および人材を、福岡市に集積させることが主要な試みです。
2020年からは国際金融機能誘致「TEAM FUKUOKA」を結成し活動、これまでに30社を超える金融関連企業が福岡市に進出しています。金融・資産運用特区指定により、さらにアジアのハブ都市となるべく、企業誘致に一層取り組むことになるでしょう。
3.2. 高機能オフィスの増加がつづく
天神ビッグバンと博多コネクテッドの2大プロジェクトは2030年まで続くとされ、企業と人材の集積がさらに進む見通しです。
すでに述べた国家戦略特区や金融・資産運用特区の指定に加え、これらの動きを側面から支える税制面の優遇措置もとられるようになっています。グリーンアジア国際戦略総合特区に基づく支援は、すでに80社が活用しており、2024年3月末までに4,000億円以上の設備投資と約3,000人以上の新規雇用が創出されました。
とくにIT関連企業の進出やスタートアップ企業が多く、優秀な人材確保のためにもオフィス環境は重要であり、生産性向上にもオフィスの高機能性が寄与することが知られるようになりました。
今後も企業と人材の集積は続き、高機能で質の高いオフィスビルへの需要はますます高まるでしょう。
3.3. ビジネスワーカーの増加が賃貸需要を押し上げる
すでに述べたように福岡市は、全国の市区で人口増加数がもっとも多い街となっています。新規創業や企業の進出が相次ぎ、ビジネスワーカーが増加していることが大きな要因ですが、都市としての魅力がアップし順調な住宅供給が続いたことも人口増加を押し上げました。
2024年12月の空室率は単身向け以外の賃貸マンションは1桁台となっており、特に20~50m2のタイプは急激に空室率を低下させています。
これは需給がひっ迫していることの現れと見られ、需要の拡大が生じていると考えられます。
人口増加が生じている要因としては外国人の流入が目立ちます。福岡市はリモートワークをしながら世界中を旅する「デジタルノマド」の拠点としても注目されており、リモートワーカーを対象とした在留資格の創設など、デジタルノマド誘致プログラムに基づいた支援を行う動きをしています。
4. アジアのリーダー都市を目指す福岡市
福岡市は札幌、仙台、広島を合わせ「地方4市」と位置づけられていますが、地価上昇率・人口増加・企業進出など不動産市場に影響を与える各指標が、他の3市を大きく凌ぐ勢いをみせています。
2014年に策定した「福岡市総合計画」のなかで、アジアのリーダー都市を目指すとした目標に向け、さまざまな準備がなされてきました。2019年には具体的な施策として始まった天神ビッグバンと、さらに博多コネクテッドのプロジェクトも佳境を迎えており、企業の集積が進んでいます。
2つのプロジェクトは2030年まで続きますが、終了時にはアジアの拠点として福岡市がどのように変貌しているのか、その過程も含めて注目する必要があるでしょう。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。