ヘルスケア不動産をとりまく環境|メディカルビル投資の動向と展望
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高齢者人口の増加とともに注目されているのが、「ヘルスケア不動産」という分野です。医療費の増加が国の財政を圧迫するなか、治療中心の医療から予防医療へのシフトが進められています。
また、かかりつけ医と地域の基幹病院との連携が進むなか、外来診療のあり方も変化しており、小規模な医療施設である診療所・クリニックの役割はより重要になっています。とくにヘルスケア不動産の1形態である、複数のクリニックを集めた「メディカルビル(モール)」は、コンパクトシティ政策が進められる都市において重要な役割を担う存在です。
この記事では、メディカルビル投資に関する現状と将来性について解説します。
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目次
1. 重要視されるヘルスケア不動産とは
ヘルスケア不動産とは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの高齢者向け住居系施設に加え、病院やクリニックといった医療系施設を含む不動産の総称です。
ヘルスケア不動産の施設数は、増加する高齢者人口に対して以前から不足しており、国は施設数の増加を促進する政策を2013年頃から開始しました。
ヘルスケア不動産への投資は、大きく「住居系施設」と「医療系施設」に分けられます。それぞれの概要は以下のとおりです。
| 住居系施設 | 医療系施設 | |
|---|---|---|
| 施設の種類 |
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| 経営主体の ビジネスモデル |
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| オペレーションリスク |
|
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高齢者向けの住宅施設には、単体の不動産の枠を超えた「CCRC」と呼ばれる事例があります。
CCRCとは「Continuing Care Retirement Community」の略です。自立した高齢者が要介護になるまでの間、健康状態に応じた住まいや医療・介護などのサービスを受けながら、地域住民との交流を通じて健康的な生活を送ることができるコミュニティを指します。
CCRC発祥の地アメリカには、約2,000ものコミュニティがあります。一方、日本においても「地方創生総合戦略」の一環として、CCRCの増設に向けた取り組みが進められており、国内各地でのさらなる展開が期待されています。
前述のとおり、ヘルスケア不動産には住居系と医療系があります。これまでのところ、住居系施設の投資が中心でしたが、高齢者向け住宅の不足を解消するため、この傾向は今後も続くと考えられます。
ただし、世代を超えた医療への需要は今後さらに拡大すると予測されます。そのため、充実した医療環境の提供を可能にするヘルスケア不動産は、今後ますます注目される分野です。
出典:法政大学学術機関リポジトリ「日本版CCRCの課題と可能性:ゆいま〜るシリーズを事例として」
関連記事:高齢者住宅の不動産市場|注目の背景と投資視点から見る特徴
2. メディカルビルが注目される背景
ヘルスケア不動産のなかでも注目されているのが「メディカルビル」と呼ばれる医療施設です。これは、1つの建物に複数の医療施設が入居するもので、メディカルモールと呼ばれることもあります。
住居系施設(有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅など)よりも小規模な投資が可能で、新規参入のハードルが比較的低い分野といえます。
医療施設は、大きく「病院」と「診療所」に区分されますが、メディカルビルは複数の診療所(クリニック)が集まった「複合医療施設」と定義づけられています。
1つのメディカルビルに入るクリニック(診療所)の診療科目は多様になるため、総合病院としての役割を担うことも可能です。また、慢性疾患や一次救急の受け皿が、大規模な総合病院から小規模なクリニックへと移行しつつある現代において、メディカルビルの重要性はさらに高まっています。そのため、投資対象としても高い価値があるといえるでしょう。
2.1. 小規模医療施設の増加
厚生労働省は、病床数が19床以下の診療所や入院設備のない無床診療所を「一般診療所」と定義しています。近年、このような小規模な医療施設は増加傾向にあります。
政府が公表した「令和6年医療施設(動態)調査」によると、2024年10月1日時点で、一般診療所は全国に約10.5万施設あり、そのうち民間(医療法人および個人)による診療所が約82%を占めています。さらに、民間の一般診療所は、2024年10月1日時点で約8.6万施設となっており、2002年比で8.8%増加しています。
一方、総合病院や自治体運営の病院では、病床稼働率の低下や人件費の高騰などにより、赤字経営に陥るケースが増えています。民間調査会社の発表によると、2025年上半期は医療機関の倒産件数が35件あり、そのうち34件は破産を選択しました。
さらに、老朽化した病院では、建替えが必要な時期を迎えても、建築費の高騰などにより困難なケースがあります。実際に、黒字経営へと転換していた都内の総合病院(病床数127床)が、2024年に診療を休止した事例がありました。
現在、地域における外来医療では「かかりつけ医」の診療が優先されており、総合病院などは「かかりつけ医」との連携により、主に急性期や重篤な患者の診療を担う体制となっています。
2025年4月に「かかりつけ医機能報告制度」が施行されたことで、機能分化と連携が加速し、メディカルビルは単なる「テナントの集合体」から地域医療インフラのハブへと資産価値が再定義されています。
また、診療所では有床診療所が減少していることが明らかになっており、無床診療所が果たす役割の重要性が一層高まっている点にも注目する必要があります。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和6年医療施設(動態)調査」
関連記事:人件費高騰時代の不動産投資戦略|建築費高騰の動向と対応策とは
2.2. 治療医療から予防医療への変化
メディカルビルへ入居する医療機関は、小規模な診療所やクリニックが主体です。従来は、病気やケガなどの治療が必要になってから医療機関を受診するのが一般的でしたが、最近では「病気を防ぐ」という視点から医療を捉える「予防医療」の重要性が指摘されています。
2023年末時点の年間国民医療費総額は約48.09兆円で、一人あたりの年間医療費は約38万円と、過去10年間で1.5倍以上に増加しています。このまま医療費が上昇を続けると、国の財政赤字は深刻化するため、医療費の削減は喫緊の課題です。
予防医療は医療費の増大を防ぐ有効な方法とされており、国や自治体、企業でさまざまな取り組みが行われています。例えば、2008年からは「メタボ健診」と呼ばれる特定健康診査制度が始まりました。次のグラフで見るように、2023年度には受診率が59.9%となり、前年から1.8%増加するなど、普及が徐々に進んでいる様子がうかがえます。
とくに、現役世代(40~59歳)の受診率が高い傾向にあります。これは、高齢者の就労率が上昇していることにより、将来を見据えて健康意識が高まっているためと考えられます。
出典:厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」より作成
また、スポーツ庁が公表した、令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、70代で週1日以上スポーツを実施する割合が、男性は69.1%、女性は67.4%と全年代の中で最も高い割合でした。この調査結果からも、高齢者世代の健康意識の高さがうかがえます。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和5年度国民医療費」
出典:スポーツ庁「令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します」
2.3. 自由診療の増加
メディカルビルが注目される背景のひとつとして、クリニックによる自由診療の増加も挙げられます。
自由診療とは公的健康保険が適用されない医療で、美容皮膚科やアンチエイジングの分野でとくに需要が拡大しています。アンチエイジングは美容と深く関係しており、皮膚科学分野の研究成果がクリニックでの施術に活かされています。その結果、患者や利用者の満足度が向上し、クリニック経営が安定成長を遂げている事例も見られます。
また、公的な特定健診よりも多くの検査項目で精密検査ができる「人間ドック」も自由診療のひとつです。2022年の国民生活基礎調査によると、人間ドックの受診率は健康診断受診者全体の8.1%であるものの、年々上昇しており、今後も増加が見込まれます。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和4年国民生活基礎調査」
2.4. 先進医療の拡大
先進医療は自由診療と異なり、診察・検査・投薬・入院など通常の治療と共通する部分の費用は公的保険が適用されます。さらに、「先進医療A」に該当する医療は将来的に公的保険適用対象となる可能性があり、クリニック経営において成長性の高い医療分野といえるでしょう。
「先進医療A」と認められている医療技術は、2025年7月時点で26種類あり、これを実施している医療機関は2,735件で、そのうち約68%はクリニックです。
具体的には「不妊治療」が多く、これは少子高齢化や初産年齢の上昇といった社会的背景が需要拡大の要因であると考えられます。
3. メディカルビル投資のメリットとリスク
メディカルビルは、今後の投資戦略において注目される分野である一方、リスクも伴います。以下では、メディカルビル投資のメリットと注意したいリスクについて解説します。
3.1. 初期投資および再投資が抑えられる
メディカルビル投資の初期費用として考えられるのは、用地の取得費とビルの建築費です。入居対象テナントは各種のクリニックで、診療科目によって必要な設備や施設構成が異なります。
そのため、賃貸借契約の条件は、テナントに対して「スケルトン渡し」とするのが一般的です。スケルトン渡しでは、入居するクリニック側が、内装工事や設備工事を行い、費用も負担します。
スケルトン渡しであれば、ビルオーナー側が負担する建築費用が軽減されます。さらに、賃貸借契約終了時にはクリニック側が原状回復工事を行うため、退去時の再投資費用も抑えることが可能です。
事業の収益源は「賃料」ですが、メディカルビルの賃料は、診療科目・エリア内の競合状況・医療需要の多寡など、医療施設としての収益性によって決まります。そのため、オフィスビル賃料とは異なり、周辺相場賃料との相関性は低い傾向にあります。
また、収益性が高い診療科目であれば、高い権利金や更新料などの設定も可能で、ビルオーナー側の事業計画に合致する合理的な賃料を設定できます。
用地の選択にあたっては、都心の利便性の高い立地が選ばれる傾向にあります。こうした立地では公共交通機関や周辺の時間貸駐車場が利用できるため、駐車場を確保する必要がなく、狭小地でも事業化が可能です。さらに、既存ビルの活用も有力な方法となるでしょう。
また、駅近や都心部など立地条件の良いエリアは、容積率が高く設定されている用途地域に該当することが多いです。広い土地面積を必要としない点も、大きなメリットといえるでしょう。
3.2. 長期間の安定経営が可能
クリニック経営で重要なのは、地域に根差した医療施設であると評価を得ることです。長期間にわたる経営が前提なため、メディカルビルの賃貸借契約も長期になる傾向にあります。
定期賃貸借契約では、短い場合でも5年程度、一般的には10~20年の契約期間とすることが多いです。
また、前述のとおりスケルトン渡しの賃貸借契約では、クリニック側の初期投資額が大きく、資金回収にある程度の期間が必要になることも、契約期間が長くなる要因です。
その他、賃料水準の高さも、メディカルビルの安定経営を支える重要な要因です。クリニック経営における適正賃料は収入の6~7%程度といわれており、集患力の高い立地であれば、高い賃料設定でもクリニック経営が成り立ち、結果的に賃貸事業の収益性も安定します。
なお、小規模な個人開業医が経営するクリニックには、一定の収入要件等を満たすと租税特別措置法26条の概算経費適用が認められており、クリニック側には節税効果が生まれます。これも安定経営を支える要因のひとつです。
さらに、クリニックの廃業率が一般法人より低いことも、メディカルビル投資のメリットでしょう。
3.3. 診療科目によっては倒産リスクも
前述のとおり総合病院の倒産は増加傾向にありますが、安定経営が見込まれるクリニックにおいても、倒産リスクがないわけではありません。
民間調査会社の発表によると、2025年上半期における医療機関の倒産は、昨年同期を上回りました。病院・診療所・歯科医院の分類で、倒産件数が最も多かったのは歯科医院でしたが、クリニックも全体の34%を占めており、これは物価高や人件費の高騰が原因と見られます。
また、需要面では安定しているクリニックでも、同一診療科目の医療施設がエリア内に複数あると、集患率が低下し、収益性が悪化する可能性があります。さらに、複数の診療科目のクリニックが入居する場合は、診療科によって集患力にばらつきが生じることも考えられます。
現代は、SNSの活用や予約システムの整備が集患力に大きく影響するため、各クリニックが安定した集患力を確保できるとは限りません。クリニックの集患マーケティング力は、メディカルビルの安定経営に大きく影響すると捉えておきましょう。
出典:帝国データバンク「倒産集計 2025年上半期報(1月~6月)」
4. 収益物件としてのメディカルビルの選定ポイント
メディカルビル投資により高い収益を上げるには、立地条件が最優先です。単に利便性が高いエリアというだけではなく、メディカルビルに相応しい立地を検討する必要があります。
4.1. コンパクトシティ政策を理解する
日本は人口減少社会であり、国内の都市は例外なくコンパクトシティ化を目指しています。コンパクトシティ化政策は自治体の都市計画に反映されており、「都市再生特別措置法」という法的枠組みのもと、各都市で立地適正化計画が策定されています。
立地適正化計画では、都心部に該当するエリアに都市機能誘導区域が指定されていますが、メディカルビルの立地もこの同区域内に設定するのが望ましいでしょう。
政府は「立地適正化計画」に基づく事業に財政的支援を行う「都市構造再編集中支援事業」を創設しており、自治体が行う事業に対する国費率を50%に設定し、都心整備を促進しています。
各都市における駅近や都心が「立地適正化計画」の区域内に該当するかどうかという点が、立地選定において重要なポイントであることを把握しておきましょう。
4.2. 診療科目とエリア特性を見極める
メディカルビル投資は立地の選択が最も重要なポイントです。そのうえで、次の2つの視点から立地エリアを絞り込む必要があります。
- 候補地の特性を分析する
- 医療連携を考慮する
メディカルビルには複数の診療科目のクリニックが入居しています。エリアによっては、クリニックを開業しても十分な集患が見込めない診療科目もあります。
例えば、出生率が高いエリアであれば、産婦人科や小児科、さらに不妊治療に特化したクリニックも高い需要が見込まれます。高齢化率が高いエリアでは、循環器系内科や整形外科が有力な診療科目とされ、腎臓透析専門クリニックなども集患力を期待できるでしょう。
また、複数の診療科目を確保するには、需要とのマッチングを冷静に分析してエリアを選択することが重要です。
かかりつけ医制度は地域の総合病院との医療連携を前提としており、クリニックには「信頼される、かかりつけ医」としての役割が求められます。医療連携を行う総合病院が近くにあることで、逆紹介によって患者数が増える効果も期待できます。
信頼性の高い総合病院が近隣にあるエリアでは競合も多くなるものの、大きな成長が見込める可能性も高まるでしょう。
関連記事:地方都市の投資戦略|データから見る将来性
5. メディカルビルはコンパクトシティ政策における重要施設
日本は既に少子高齢社会となっており、多くの都市でコンパクトシティ政策が進められています。医療施設は都心機能に不可欠な存在ですが、総合病院の赤字拡大や閉鎖など、医療業界を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。
医療費の増大が国の財政赤字を拡大させるなか、治療中心の医療から予防医療への転換が進められており、小規模な医療施設であるクリニックの重要性はますます高まる想定です。なかでも複数のクリニックを集めた「メディカルビル」の必要性は、とくに注目されています。
今後、求められるヘルスケア不動産のなかでも、メディカルビルは有望な投資対象として注目すべき分野です。賃貸事業の1つのカテゴリーとはいえ、地域社会の医療制度を支える重要な役割を担い、かつ景気変動の影響をあまり受けない安定した収益を可能にします。
また、立地適正化計画に基づく予算措置や金融支援などのメリットがあります。さらに、オフィスビルとは異なり、「駅近」以外にも地域の周辺施設と連携し、医療ニーズの集積を図ることで、質の高い医療系テナントの誘致が可能です。
そのためには、コンパクトシティ政策との整合性、想定診療科目とエリア特性のマッチング、テナントの医療連携体制といったポイントの総合的な確認が不可欠です。まずは、保有物件や検討エリアのポテンシャルを可視化することから始めてみてはいかがでしょうか。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。
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