一棟マンションの用途変更(コンバージョン)による資産価値最大化|実務上のハードルと戦略的出口設計
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インバウンド需要の本格的な回復と宿泊単価の上昇を背景に、収益が低下した一棟マンションを「アパートメントホテル」や「民泊」へ用途変更(コンバージョン)し、資産効率(ROA)を向上させる動きが加速しています。
しかし、マンションから宿泊施設への転用は、法規制や用途変更に伴う建築確認申請、さらには運営コストの構造的変化など、クリアすべき実務上の課題が少なくありません。単に「用途を変える」だけでなく、将来的な出口戦略(売却)を見据えた緻密な事業設計が求められます。
本記事では、経営課題を解決する手段としてのマンションの用途変更について、最新の市場トレンドを交えながら、事業化へのステップと成功の要諦を解説します。
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目次
1. 一棟マンション投資の用途変更(コンバージョン)とは
用途変更(コンバージョン)とは、既存建築物の用途を変更し、建物を従来とは異なる目的で使用する手法です。
建築物の劣化が進んでいる場合や、仕様・設備などが陳腐化し需要が見込めない場合に、リフォームやリノベーションを検討することが一般的です。しかし、競合物件が多いエリアや収益改善が見込めない場合には、用途変更によって宿泊事業などの新規分野に参入するほうが、事業上のメリットが大きくなるケースがあります。
また、既存建築物だけでなく新築物件についても、当初の計画とは異なる用途に変更して新規事業を行う事例も見られます。用途変更は、変化する市場ニーズに合わせてアセット(資産)の役割を最適化させるための、有効な経営判断といえるでしょう。
2. 一棟マンションを用途変更する目的
一棟マンションを用途変更する目的としては、事業用不動産の「収益性向上」を目指すケースのほか、今後の需要増が期待できる分野への「先行投資」を目的として行う場合があります。
収益性向上を目指す用途変更の具体例としては、アパートメントホテルなどの旅行客を対象とした事業が挙げられます。また、直接的な収益施設ではありませんが、社員寮や寄宿舎・出張者向け宿泊施設など企業・団体の福利厚生施設として活用することで、従業員満足度や生産性を高めることで、中長期的な収益性向上につなげる事例も見られます。
先行投資を目的とした用途変更では、観光資源の開発によって将来的な宿泊需要が見込めるエリアでの、アパートメントホテルの開業があります。また、中核都市においては大規模な企業誘致に関連し、ビジネス客の需要増加が見込める駅近マンションを宿泊施設に用途変更するなども、将来価値を見据えた有効な戦略となります。
2.1. 一棟マンションの用途変更で注目される「民泊活用」
一棟マンションを宿泊施設へ用途変更するには、主に、以下のいずれかの枠組みで手続きを行う必要があります。
- ① 旅館業法に基づく営業許可(ホテル・旅館・簡易宿所等)
- ② 国家戦略特区法に基づく特区民泊の認定
- ③ 住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)に基づく届出
現在、日本国内の宿泊施設はインバウンドの拡大によって供給不足が顕著です。観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、2025年10月にはビジネスホテルとシティホテルの全国の稼働率が80%を超えました。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成
2023年10月=100として前年同月比を連鎖した稼働率指数で見ると、2025年には2023年比で約8%上昇しており、需給のひっ迫が鮮明になっています。
全国のビジネス・シティホテルの稼働率指数(2023年10月=100、前年同月比を連鎖)
| 2023年10月 (基準=100) |
2024年10月 (指数) |
2025年10月 (指数) |
|
|---|---|---|---|
| 全体 | 100 | 104 | 108 |
| シティホテル | 100 | 103 | 107 |
| ビジネスホテル | 100 | 107 | 109 |
※指数は前年同月比を連鎖して算出(2025年は2023年比の累積)。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成
こうした稼働率の上昇は、今後も民泊を含む宿泊供給の補完ニーズがさらに高まることを示唆しています。
一般的に、賃貸マンションに比べて、民泊は1室あたりの収益性が高い傾向にあります。とくに特区民泊は、住宅宿泊事業法(民泊新法)のような年間180日の営業日数制限がないため、高い収益性が期待できます。特区民泊が可能なエリアとしては、東京都大田区・大阪府・福岡市・北九州市・新潟市・千葉市が国家戦略特区に指定されています。
※なお、大阪市は2026年5月より特区民泊の新規受付を終了する予定です。
こうした大都市以外にも、地方の中核都市の駅近エリアにおいては、需要の変化に応じた用途変更は有効な投資判断の一つとなるでしょう。
関連記事:拡大する民泊市場の可能性|法規制、収益構造と投資戦略
3. 一棟マンションの用途変更と法的規制
一棟マンションの用途変更を検討する際、まず確認すべきなのが「法的規制」です。既存の建物を異なる用途で使用するには、建築基準法や消防法などの各基準をクリアしなければならず、これらは改修コストにも大きく影響します。
建築基準法では、建物の用途を変更して「特殊建築物(ホテル、寄宿舎など)」にする際、その延床面積が200㎡を超える場合には、建築主事等への「建築確認申請」が必要です。
この際、マンション(共同住宅)からの用途変更は、申請が不要となる「類似用途」の規定にはあてはまりません。たとえ構造が似ていても、面積要件を満たせば原則として申請手続きが必要になります。
建築確認申請の観点から一棟マンションの用途変更を検討する場合、最もハードルが低いのが「民泊(住宅宿泊事業法)」の活用です。住宅宿泊事業法(届出型)の民泊は、建築基準法上の用途を住宅(共同住宅)のまま整理して進めるケースが一般的で、この場合、建築基準法上の用途変更に該当せず、煩雑な建築確認申請の手続きを回避できるという大きなメリットがあります。一方、一棟マンションを民泊ではなく旅館業法上の「旅館・ホテル・簡易宿所」とするときは、200㎡を超える用途変更について建築確認申請が必要です。
また、建築確認申請において、消防設備の設置が義務付けられる建築物には、消防機関の同意が必要になります。そのため、建築確認申請を行う前に所轄の消防署予防課と協議を行うのが一般的です。
マンションを宿泊施設に変更するには防火対象物の区分が変わるため、誘導灯や自動火災報知設備、さらにスプリンクラーなどの設置基準がマンションよりも厳しくなります。消防設備の更新には大規模な設備投資が必要になるため、計画の初期段階で事前協議を行っておくことが、プロジェクトを円滑に進めるポイントです。
4. 用途変更後の出口戦略
一棟マンションを民泊や他の用途に変更した後は、「保有して運用」する方法と「バリューアップした状態で売却」する方法があります。いずれの場合も事業計画を入念に検討し、出口戦略を策定することが重要です。
保有して運用する場合は、これまでの「賃貸管理」から「宿泊・民泊管理」へとプロパティマネジメントの手法や考え方が変わります。外部委託する場合は、単なる建物の維持管理だけでなく、ゲスト対応や清掃、稼働率のコントロールなど、事業目的に合致した管理会社の選定と委託範囲の明確化が不可欠です。
売却する場合は、主に「リフォーム完了時点」と「稼働開始後」の2つのタイミングがあります。
また、売却には、第三者への売却により投資資金の回収(キャピタルゲイン)を図る場合と、オフバランスを目的とする場合の2つのパターンがあります。
第三者への売却で売却価格の最大化を図るには、一定の運営実績が必要です。宿泊室の稼働率、ADR(客室平均単価)、リピート率、宿泊客セグメントなどの可視化されたデータがあると有効です。
資産を貸借対照表から切り離す「オフバランス」が目的の場合、売却後もリースバック等によって宿泊事業を継続する手法が一般的ですが、本質的には保有して運用する方法と変わりません。稼働率を上げ、収益性を高めることが重要な課題となります。
関連記事:オフバランスとは?手法やメリットについてわかりやすく解説
5. 一棟マンションを用途変更するメリット・デメリット
一棟マンションの用途変更を検討する際は、投資コストやスピード感、そして法規制やファイナンス面のリスクを総合的に判断する必要があります。
| メリット | デメリット |
|---|---|
|
|
建築確認申請が不要な範囲での用途変更は、既存建物に対する再投資費用が少なく済みます。さらにリフォームなどの工事期間も短く、事業転換を迅速に進めることが可能です。
低稼働の遊休不動産を宿泊施設へ用途変更することは、収益改善のみならず、保有資産のポテンシャルを最大限に引き出す手法です。経済合理性を高めることで、投資家や金融機関などのステークホルダーからも高い評価を得ることが可能となります。
また、民泊は駅近であれば利便性が高く、ホテルのように主要都市の一等地などに立地する必要性は低いため、用途変更による事業転換を図りやすい投資対象です。
一方で、建築確認申請が必要となる用途変更の場合は、建物の現行法への適合性が低いほど、改修費用は高額になります。とくに構造耐力に関わる部分では、適合させるのが技術的に不可能な場合もあり、事前の予備的な検討に費用や時間がかかることも少なくありません。
また、稼働中のマンションでは借地借家法により居住者の権利が保護されているため、用途変更に伴う立ち退きには慎重な対応が求められます。
そのためには、立ち退き料の負担や合意形成の手続きが必要になる可能性もあり、事業スケジュールに遅延リスクを織り込んでおく必要があるでしょう。
6. 一棟マンションを用途変更する際の注意点・リスク対策
一棟マンションを宿泊施設に用途変更する場合、計画段階で注意すべきポイントがあります。
宿泊施設への用途変更は次の3つの枠組みに分けられ、どの枠組みで進めるかを明確にする必要があります。
- 国家戦略特区法の認定を受けた「特区民泊」
- 住宅宿泊事業法に基づく「民泊」
- 旅館業法に基づく「簡易宿所」※
まず収支計画の観点では、住宅宿泊事業法に基づく「民泊」は制度上、年間営業日数が180日以内に制限されるため、通年稼働を前提とした収支計画は立てにくい場合があります。一方、「特区民泊」や旅館業(「簡易宿所」など)には営業日数の制限がありません。ただし、それぞれ求められる設備要件や運営体制は異なるため、エリアの特性や目標とする稼働率に合わせ、最適な枠組みを選ぶことが重要です。
次に手続き面(建築確認)の観点で整理します。「特区民泊」と「民泊」は延床面積が200㎡を超えていても建築確認は不要なケースが一般的です。一方、「簡易宿所」は200㎡を超えると建築確認申請が必要となります。
さらに、木造住宅を民泊に変更するため大規模な修繕や模様替えを伴う場合は、2階建て、あるいは200㎡を超えていると、令和7年4月の建築基準法改正により「新2号建築物」に該当し、構造審査や省エネ基準の適合義務化を含めた建築確認が必要です。
以上のように、建築確認に際しては、現行の建築基準法などに適合している必要があり、改築工事費が想定以上に膨らむリスクがあります。そのため、事業計画を確定させる前に専門家による事前調査を行い、法的適合性とコストを精査しておくことが望ましいでしょう。
次に注意すべきポイントは、マンションから宿泊施設への事業転換にかかるスケジュールです。
用途変更事業では、マンションのリフォームを伴うことが多く、一定の工事期間を見込む必要があります。
全室が空室であれば、任意のタイミングで着工が可能です。しかし、入居者がいる場合は賃貸借契約の解除と立ち退き・明け渡しが完了するまでの期間を設けなければなりません。
一般的にマンションの賃貸借契約は「普通借家契約」であることが多く、借地借家法による強い保護が居住者に適用されます。マンションを用途変更するための契約解除は「賃貸人(マンションオーナー)」の都合によるものとなるため、正当な事由がなければ認められません。
正当な事由の1つとしては、「立ち退き料」の支払いが通例となっています。立ち退き料に法的な基準はなく、相手方との交渉次第では高額化するケースも珍しくありません。交渉の難航によって工事に着手できず、用途変更事業が大幅に先送りとなるリスクも、あらかじめ考慮しておくべきでしょう。
また、民泊に変更するマンションが商業地ではなく住宅地にある場合は、近隣との関係も注意が必要です。
宿泊客の往来が多くなると、騒音やゴミの不法投棄などが発生し、報道でも大きな問題として取り上げられています。民泊は所定の届出や認定が必要ですが、近隣とのトラブルに発展し、事業者が適切な是正対応を行わない場合は、届出の取り消しや営業停止を命じられるリスクも否定できません。
したがって、住宅地での民泊を検討する際は、近隣への事前説明はもちろん、24時間体制の窓口設置や清掃ルールの徹底など、トラブルを未然に防ぐための管理体制を十分に整えることが不可欠です。
7. 一棟マンションの用途変更による成功事例
本章では、一棟マンションを宿泊用途に変更して収益性を高めた事例を2つ紹介します。
事例①は実績のある上場企業の事例、事例②は創業10年という比較的新しい企業の事例です。
7.1. 事例①マンションデベロッパーによる一棟マンションの用途変更
最初に紹介するのは上場企業であるマンションデベロッパーの事例です。
同社には分譲マンション事業、賃貸マンション・オフィス事業、宿泊事業の3つのセグメントがあります。公開された2025年3月期決算資料によると、特筆すべきはその収益性で、グループ全体の営業利益は約94.5億円のうち、約67.7億円(全体の71.6%)を宿泊事業が叩き出しています。セグメント別の営業利益率は約28.6%という驚異的な水準です。
2018年に開業した第1号ホテルは、オフィスビルをアパートメントホテルに用途変更したものでした。その後、同社はファミリータイプの賃貸マンション等を宿泊施設へ転用する戦略を加速しており、2025年4月時点では全国27拠点・1,434室を展開するまでに成長しています。
同社の戦略が奏功した最大の要因は、「家族旅行で訪日する外国人観光客」というターゲットを明確にした点にあります。従来のホテルでは手薄だった「大人数で泊まれるファミリータイプ」のマンション構造を活かした用途変更が、インバウンド需要と完璧に合致した成功事例といえるでしょう。
7.2. 事例②不動産会社による一棟マンションの用途変更
次に紹介するのはインバウンド特化型宿泊事業のプロパティマネジメントを行う不動産会社の事例です。
同社は2015年に創業し、大手民泊ポータルサイトの公式パートナーとして、国内外で年間60万人が宿泊する施設を運営しています。
新築のアパートメントホテルの開発に加え、マンションやオフィスを用途変更してアパートメントホテルにコンバージョンする事業が主力です。
現在、アパートメントホテル・ビジネスホテル・カプセルホテルなど東京都や大阪府を中心に全国で47施設を運営しています。主にハウスメーカーと共同で不動産所有者に対する土地活用事業の提案を行っており、2024年には年間24棟・資産価値にして約500億円のアセット開発を実施するなど、その勢いは加速しています。
2023年には新築で完成した共同住宅をコンバージョンし、11室・47名収容のアパートメントホテルとして開業した事例もあります。本事例は、宿泊用途への変更を活用した、マンションの新しい再生手法として注目できるでしょう。
こうした広がりは、インバウンド需要のみならず、長期滞在ニーズに応える「サービスアパートメント」という選択肢とも親和性が高く、今後ますます需要が高まっていくでしょう。
8. 一棟マンションの再生手法として注目されるコンバージョン
日本は人口減少と高齢化が同時に進む社会となって久しく、さらに都心への人口集中と地方での過疎化という二極化が起きています。
不動産投資の有力な分野である賃貸住宅業界においては、供給の活発化に伴う需給バランスの変化は避けられず、今後は収益性が低下したマンションの価値の再構築が重要なテーマとなるでしょう。
そのため、収益性が低下したマンションでは、収益性の向上を目的として用途変更(コンバージョン)を検討する場合もあるでしょう。
日本は国際的な観光地として評価が高まると同時に、ビジネス投資への外資誘致の進展により、インバウンド需要は今後さらなる拡大が見込まれています。現在、この需要に対する宿泊施設の量的不足は喫緊の課題です。
収益性の低下したマンションを、宿泊用途に変更する手法は、宿泊施設不足の解消に寄与するだけでなく、オーナーにとっては収益性を劇的に改善させ、資産価値を向上させる大きなチャンスとなります。時代の変化を柔軟に捉え、適切に法的・実務的プロセスを踏むことで、不動産が持つ本来のポテンシャルを最大限に引き出すことができるはずです。
一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。
東急リバブル ソリューション事業本部では、最新の市場データを独自の視点で分析したレポート「ホテルマーケットレポート」を公開しています。
各方面への調査に基づいた本資料を、今後の不動産取引における判断材料としてぜひご活用ください。
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